在宅での緩和ケアもその点で変わりはありません。しかし、患者さんのご自宅でのケアとなると、病棟でのケアとは違った患者さんやご家族のニーズ、希望、あるいは悩みが出てきます。特に、病院での療養との違いが出るのは、「社会性」をめぐる領域と思われます。
在宅でのケアの現場で「社会性」の問題といえば、基本的には介護の問題や経済的な問題を意味することが多いです。この二つの問題は、患者さんとご家族にとって頭の痛い問題です。しかし、「社会性」が意味するのはこれだけではありません。
人間はもともと社会的な存在です。一人では生きていません。人は元気な時には、生活のなかでさまざまな人といろいろな接点をもち、つきあいをしながら、日々過ごしています。ご自宅は、そのような社会性に満ちた日常生活を暮らす拠り所であり、家族と共に生活する場です。入院治療時とは違って、ご自宅では患者さんとご家族が主役です。医療や介護を支えるためにさまざまな職種のスタッフがご自宅を訪れますが、それは患者さんとご家族の生活を支援するためです。
そのような患者さんやご家族を、社会性の面から支える時、さまざまなご希望や悩み、ニーズへの対応がなされます。これまで私がお会いした患者さんには、話し相手が欲しいということでお会いした方もおられました。私に限らず、在宅では訪問スタッフと患者さんの趣味が共通だった時、趣味の話がはずむことがよくあります。患者さんはそのスタッフの訪問を心待ちにし、ご家族もその楽しげな会話の様子を喜ばれたりします。これなど、在宅ならではの社会性の発揮です。
患者さんがさびしさをうったえられることもあります。元気な時には友人を訪ねたり、外出したりできます。しかし病気の時、それがままならなくなります。そうした時、さびしさは患者さんにとって決して軽い悩みではありません。
しかも在宅の現場でも、お一人暮らしの患者さんが増えてきています。お一人暮らしの方の増加をうけて、さびしさへの対応や生活への多面的な支援は、今後ますます大きな課題となってきます。そのため、ボランティアの方々の参加による支援や、地域での見守りや対応が必要とされる場面も増えてくると考えられます。制度的なところに収まりきらないニーズや問題が、社会性の領域には含まれています。今後、こうした社会性への視野を拡げることは、在宅緩和ケアの豊かな可能性を拡げることにつながるものと思われます。