平成24年度 第125回「生と死」のセミナー
「生と死をみつめて」
童話作家 阿部 邦子 氏
私は三回、がんを体験しています。「あなたはがんです」、この言葉に、慣れることなどできません。それどころか、「私はがん体質?」、その思いを、一生引きずっていかなければならないのです。
そんな私を救ってくれたのは、気持をわかってくれる家族、友人がいてくれたこと、そして、信頼できるお医者様達との、出会いでした。人間はやはり、誰かに分かってもらえる、それが一番の救いとなると思います。
そして。東日本大震災。まさか自分が、がん患者になるとは思わなかった、それと同じに、まさか自分が被災者になるとは、思いもしませんでした。
避難所生活の中で、私は「こういう体験をしたことがある」、と思いました。そして気付きました。避難所生活は、入院生活と、多くの共通点があったのです。どちらも、同じ部屋の人たちと気持よく過ごせるかどうかが、一番大事なことでした。そして、そのためには、お見舞いしてくれる方にも、協力して頂きたいことがあるのです。
また、がん患者にも被災者にも、聞き上手になってほしい。どちらも究極の、辛い思いを抱えています。意見を押し付けるのではなく、受け止めて戴けたらと思います。そして、一年たとうと、辛さを抱え続けている人もいると言うことを、理解してほしいと思います。そうしてどちらも体験しているからこそわかったこと。それは日々の生活の中での言葉の大切さです。
ターミナルケアは必要だと思います。抗がん剤治療中、もうダメかなと何度か思いました。そんな時、寄り添ってくれる方の存在を、無意識に求めていました。でも。人はいつ、どんな形で旅立つかは、わからないのです。病なら、まだしも看病の時はある。ですが大震災で、大事な人を一瞬のうちに、何人も失いました。その時、思ったのです。人は大事な人にこそ、ありがとう、嬉しい、おいしいね、大好きだよ、そういう気持ちを伝えるべきなのだと。大事な人を失った時、遺された人の心には大きな空洞が開きます。その空洞を出来る限り小さくするには、亡くなった方への心残りがあるかどうかだと思います。
私は大好きだった友人や実家の両親たちに、心残りはありません。お互いに、気持はしっかり伝えあえていたと思えるからです。その思いだけが、遺された人の気持ちを救うと思えます。
どうか、「余命あと**か月」と言われてからではなく、日々、大切な人にこそ、感謝や喜びの気持ちを伝えておいてほしいです。それと、「寝たきりの人にも人格はある」と医療者関係の方が言って下さるようになり、とても嬉しいのですが、ならば「おばあちゃん」ではなく、名前で語りかけてくださいね。名前で呼びかける、それ
が相手の心へのノックだと、私は思っています。
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仙台ターミナルケアを考える会