シンポジスト
牛坂朋美 光ヶ丘スペルマン病院 ホスピス看護師長
中保利通 東北大学病院緩和医療科 科長
阿部京子 宮城県立がんセンター 緩和ケア病棟師長
高橋通規 仙台医療センター 緩和ケア内科部長
コーディネーター
小笠原鉄郎 宮城県立がんセンター 緩和医療科 科長
わが国および宮城県内の病院における緩和ケアの歩み
1967年 シシリーソンダースがロンドンにホスピスを開設
1973年 淀川キリスト教病院にOCDP(緩和ケアチーム)活動開始
1981年 聖隷三方原病院に日本初のホスピス開設
1987年 東北労災病院に緩和ケア外来開設
1989年 仙台ターミナルケアを考える会発足
1994年 緩和ケア病棟設置の署名運動、宮城県議会に請願
1998年 光ヶ丘スペルマン病院ホスピス開設
2000年 東北大学病院緩和ケアセンター開設
2002年 県立がんセンター緩和ケア病棟開設
2006年 がん対策基本法制定
2007年 がん診療連携拠点病院指定 407カ所 宮城県7カ所
拠点病院に緩和ケアチーム・緩和ケア外来の設置義務
がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会開始 2014年現在5万人受講済
2014年 全国に緩和ケア病棟308、病床数6193 県内の病院緩和ケアチーム14
県内の病院における緩和ケアの現状と課題を4施設から報告していただいた。
1)光ヶ丘スペルマン病院ホスピス
カトリックを背景としている病院に設立された。特徴は入院患者さんをゲストと呼称していることでわかるように患者さんに温かくじっくりとケアをしていこうというホスピスの原点を貫く姿勢が感じられる。一方で、それだけに入院期間が長くなり、その結果新規の患者さんの受け入れを制限せざるを得ないことになり、入院までの待機期間が長く、外来受診の予約も月を越える待機になっている現状のようである。その解決法のひとつとして、同院の一般内科病棟にまず受け入れそこで待機するような体制としているとのことであった。
2)東北大学病院緩和ケアセンター
国立大学病院では初めて開設された緩和ケア病棟であり、難治性の疼痛を有する患者を優先的に受け入れている。また大学病院であることから医学部学生への教育を担っているわけであるが、医学生は他の専門領域の履修で手一杯の状態で緩和ケア領域の教育比重は少ないのが現状である。また臨床研究では音楽療法、精神科とのコラボレーションなどを行っているが終末期の患者は臨床研究の対象となりにくいことが研究上の悩みである。入院申し込み患者も多く外来で入院適応の選択をやや厳しくしているという印象も与えていたようであるが、現在はホームページでおおよその待機状況を表示するようにしており比較的スムースに入院できるようになっている。
3)宮城県立がんセンター緩和ケア病棟
当会の街頭署名運動、県議会への請願の結果開設され、院内独立型のコテージ風の自然環境に恵まれた病棟である。その特徴を活かした、外気浴、ラジオ体操、ペットの訪問、ミニ菜園などのケアが行われている。待機患者の受け入れのため長期入院の制限を行っており入院患者数は増加し在院日数も1ヶ月未満になってきた。その分在宅ケアへの移行率も高く、地元の岡部医院など在宅専門診療所との連携も多い。一方で入院期間の短縮化については患者家族からの不満の声もあるようだ。また問題は交通アクセスの悪いこともあり仙台市民の利用や県民全体の恩恵が少ないことである。
4)仙台医療センター緩和ケアチーム
緩和ケア病棟を持たなくとも一般病棟や外来での緩和ケアは可能である。そして緩和ケアは終末期だけのものではなく、がんと診断された時点から開始されなければならないという考え方から、がん診療を行っている病院では栄養サポートチーム、褥瘡チーム、感染対策チームなどと並んで緩和ケアチームが各診療科からのコンサルテーションを受けたり院内のサーベイを行っている。県内では7がん診療連携拠点病院に加え計14病院が緩和ケアチームを有し活動しているが、仙台医療センターの緩和ケアチームの活動が先進的である。緩和ケア内科として医師、看護師の専従スタッフ+精神科医、薬剤師、ソーシャルワーカーなどのチームが外来、入院患者の疼痛その他のがんに伴う症状の緩和に関するコンサルテーション、院内教育活動を展開している。チームが関与することによって入院中の患者の除痛のレベルがUPしている。
以上病院における緩和ケアの現状の報告があったが、今後は緩和ケアチームの活動を通してがんと診断された時点からの緩和ケア(治療選択などの意思決定支援、がんを持つ勤労者の就労支援、看護外来などにおけるカウンセリング、中等度の疼痛も見逃さない早めの除痛、在宅療養支援診療所への橋渡し、在宅患者の緊急入院の受け入れ、市民への啓発など)の課題は多い。県内の3病院の緩和ケア病棟も設立当初の位置づけとは自ずから目標が変わってきており、より専門的な緩和ケアの提供だけでなく医療関係者のみならず市民への教育活動の中心となっていくと思われる。これまで以上に利用し易く開かれた施設としていかなければならないであろう。