沿 革   
 
  会 則   
 
  役 員   
 
 生と死のセミナー
 
   会 報   
 
 出前講座/その他
 在宅療養Q&A
 
  お知らせ  
 
  リンク   
       第136回「生と死のセミナー」
    

 「いろいろな緩和的放射線治療」
  ~ 粒子線治療などの取り組み ~

      和田 仁 氏
      
一般社団法人脳神経疾患研究所
        附属総合南東北病院 
        陽子線治療研究所 所長

 

 緩和的放射線治療という言葉をご存じでしょうか?少ない線量の放射線治療でがんのつらい症状がやわらぐことがあるのです。

放射線治療は手術、化学療法とならぶがん治療の3本柱の1つで、「切らずに治す」が売り文句です。近年の科学技術やコンピュータの進歩のおかげで、小さながんに対するピンポイントの定位放射線治療、病巣の形に合わせて精密に狙う強度変調放射線治療(IMRT)、来年度から小児がんと手術困難な骨軟部腫瘍でついに保険適応となった粒子線治療、新たな臨床研究が始まったホウ素中性子捕捉療法(BNCT)など、いろいろな高精度放射線治療が登場してきました。

がんを治そうとする放射線治療を根治的放射線治療(または根治照射)といいます。いろいろな対策をしても副作用で患者さんに我慢を強いてしまう場合が時にあります。一方、緩和的放射線治療(または緩和照射)は無理せずがんの症状を楽にすることを主眼にしています。緩和的放射線治療の期間は、①初診日に終了可能な1回、②なるべく短期に数回、③日本の放射線腫瘍医が好む2週で10回、④長期的な病状コントロールや根治も視野に入れた場合は1か月程度、が標準的です。早い時期の症状改善率にはほとんど差がなく、いろいろな要素で適切と判断される治療方針が選択されます。

緩和的放射線治療対象の代表格である骨転移の痛みに対する効果は証明されています。痛い部分やタイプなどで効果に幅はありますが、痛みが楽になるのはおよそ3人に2人、痛みがほぼ消失するのはおよそ3人に1人と報告されています。骨折予防やしびれなどの神経症状改善にも効果が期待されます。そして、鎮痛剤はあくまで対症的に痛みをやわらげるだけですが、緩和的放射線治療は一部であっても根本的にがんをたたくことで痛みの元が良くなります。中長期的には結構高額な医療用麻薬などの減量で経済的負担も減ります。なにより、病状が進行すればどんどん量が増えてしまう鎮痛剤と違い、患者さんは「治している」実感が得られ気持ちの支えにもなります。これって、とても大事なことですよね!

他にも脳転移による神経症状、がんからの出血、がんによる気管・血管圧迫など、全身のいろいろな症状に効果があります。できれば症状が軽いうちに治療をした方が望ましいのですが、特にがんによる脊髄圧迫で下半身まひや排便排尿障害が出現した場合は目安として発見後48時間以内に緊急放射線治療を行うことが薦められています。症状が完成してしまうと治りにくくなってしまうからです。脊椎転移患者さんに以下のような症状が出現したらできるだけ早くかかりつけの医療機関に相談するとよいでしょう。1.夜、眠れないほどの背中の強い痛み。2.横になったり、立ち上がったり、重いものを持ったときに強くなる背中の痛み。3.背中に始まり、胸・腹・あるいは手足まで達する痛み。4.手足に力が入りにくい、しびれる。5.急に出にくくなったお小水やお通じ(NICEガイドライン訳:国立がんセンター東病院中村直樹先生資料借用改変)

緩和ケアもターミナルケアも言葉としてあり、緩和照射もありますがターミナル(終末期)照射は聞いたことがありません。がん患者さんは亡くなられる2ヵ月くらい前から急に身体機能が低下することが多いです。緩和的放射線治療の効果が現れるのは治療後数週してからが多く、全身状態の問題などもあり、がん終末期は緩和的放射線治療の対象となる病状は少ないというのが理由かもしれません。ただし、終末期であっても腫瘍からの出血など数日以内に症状改善が見込める病状もあります。

緩和的放射線治療はがんの緩和医療においてあくまで一つの治療選択肢ですが、いろいろな面で心身の癒しとなる患者さん本位の放射線治療なのです。



                              戻 る
リーフレットはこちらから ダウンロードできます↓
遺族の会 ふれあい
ホスピス 110番
仙台ターミナルケアを考える会