人間はこの世に生を受けてから死に至るまで、生活活動を営むために必要な物質を外界から身体に取り入れて利用し、生命を維持しています。この現象を栄養といいます。身体に栄養を取り入れる方法には、食事、管から流動食を流し入れる経腸栄養、静脈栄養(点滴)があります。このうち食事には、栄養を取り入れることだけではなく、味や香りを楽しみ心が満たされるなど、様々な目的があります。管理栄養士は、個々人の栄養状態に応じて、栄養投与の方法(食事・経腸栄養・静脈栄養)や栄養投与量を考える職種です。
我が国では、がんによる死亡率が高く、がんの終末期には著しい栄養状態の低下がみられることが知られています。病気や治療に対する不安、自分や家族の生活に対する不安、手術や化学療法などの治療による食欲低下などが栄養状態の低下につながります。そのほか、化学療法による吐気・嘔吐、口内炎、味覚障害、下痢、がん悪液質(栄養を投与しても栄養状態の改善が困難な状態)など栄養状態を低下させる要因はたくさんあります。そのようななかで、管理栄養士として何ができるのか、改めて考える機会をいただきました。
管理栄養士の仕事には、栄養状態を評価・判定することがあります。身長・体重、体脂肪量・筋肉量の推定、食事摂取量、血液や尿の検査などにより栄養状態を判定します。そのうえで、栄養状態の低下を抑制する、または低下している栄養状態を改善するなどの目標をたて、具体的な方法を計画します。食欲を増進するためには、食事の味・いろどり・香り・食感・温度・舌触りなどに配慮することが必要となりますが、個人の習慣や経験により形成された嗜好に近づくことは簡単な事ではありません。病院食などの大量調理現場になればなおさらのことです。一方で、以前美味しく食べていたお料理であっても、その時の体調などにより美味しいと感じていただけるとは限りません。食欲の低下している方に、食べたいものを食べていただく、一見簡単そうなことですが、簡単ではない事を痛感しています。
近年、病院内に栄養サポートチームを組織し、活動している施設が増加しています。治療効果が期待できる、栄養状態の改善が期待できる時期だからこそ、医師・看護師・薬剤師・管理栄養士などが集まり、それぞれの専門的な立場で意見を出し合います。食欲低下や味覚低下につながる薬剤の検討、便秘や下痢への対応、静脈栄養や経腸栄養の検討など栄養状態に関わることについて、チームで検討します。管理栄養士の役割について例をあげると、適切な栄養補助食品の提案です。少量で多くの栄養素を摂取することができる食品、がんの炎症には抗炎症効果のある栄養剤、筋肉の低下には筋肉合成を促進する栄養剤
などについて提案します。これらの栄養剤は適切な時期に使用することで効果が期待されます。
この世に生を受けた人間は、いつか必ず最期を迎えます。がんの終末期には、強制的に栄養を投与しても、栄養状態の改善が困難な栄養不良の状態(がん悪液質)になります。
さらに、がんの痛みや呼吸困難により、体位交換が難しくなることで、褥瘡(床ずれ)ができやすくなります。医療・介護に携わる者にとって、【最期まで褥瘡を作らないこと】は共通の目標です。
最期の時が近づくにつれ、管理栄養士にできることは少なくなっていきます。
終末期の栄養、管理栄養士として何ができるのか・・・・・・・最後の一口に食べたいものを食べさせてあげたい。