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          平成24年度 特別講演

   「地域の中の在宅ホスピスケア」
   〜 ケアタウン小平の場合 〜 
 
            山崎 章郎 氏
                    ケアタウン小平クリニック院長
 
 
本日の演題は「地域の中の在宅ホスピスケア」ですが、最初にホスピスケア・緩和ケアなどの言葉の定義に触れ、次いでケアタウン小平の取り組みについて、最後に在宅から見た医療の課題についてお話します。

 末期患者の苦痛は、身体的な苦痛だけでなく、精神的、社会的、スピリチュアルな痛みから構成された全人的な苦痛である。これはイギリスの医師であり、看護師であり、ソーシャルワーカーでもあったシシリーソンダースが提唱した概念です。この全人的苦痛へのケアがホスピスケアです。

 緩和ケアとは、WHOの緩和ケアの定義(2002年)によると「緩和ケアとは、生命を脅かす疾患による問題に直面している患者とその家族に対して、疾患の早期より痛み、身体的問題、心理社会的問題、スピリチュアルな問題に関してきちんと評価をおこない、それが障害とならないように予防したり対処したりすることで、QOLを改善するためのアプローチである」としています。つまりホスピスケアも緩和ケアも全人的なケアであり、ホスピスケアと緩和ケアは同じなのです。違いは、ホスピスケアが「全人的ケアを、死を間近にした人々への

提供」であり、緩和ケアは「生命を脅かす疾患の早い段階から、死に至るまでの提供」であることから、緩和ケア(WHO)はホスピスケアの期間を拡大したものです。

私がこれまでホスピスで学んできたことは苦痛症状緩和の大切さ、インフォームド・コンセントの大切さ、チームケアの大切さ、ボランティアとの協働の大切さ、生きる意味を見失ってしまった人びとへのケア(スピリチュアルケア)の大切さ、グリーフケア(悲嘆ケア)の大切さでした。

 人間は身体的、社会的、精神心理的な存在とよく言われていますが、人間存在にとって重要なものがスピリチュアリティです。

スピリチュアリティとは、この4つの要素から人間存在を構造化すると、身体的存在、社会的存在、精神心理的存在を円で重ね合わせ、それぞれが共通する部分、すなわち中心部分をスピリチュアリティな存在だと考えます。

スピリチュアリティには、1)人生の危機の中で、苦しんだり、無力を自覚した時、「なぜ私が」と自己の存在の意味を問い、失われた生きる意味や、目的を自己の内面に新たに見つけ出そうと、探求する。2)危機状況で、生きる力や、希望を見つけ出そうと、自分の外の大きなもの、人間を超えたものに、「なぜ私が」と問いかけ、新たな拠り所を求めるなどの機能があります。

スピリチュアリティが適切に機能しなければ自己の内面にも、自分の外の大きなものに対しても、生きる意味や目的、生きる力や希望を見出すことが出来ず、それを痛み(ペイン)として感じ苦悩します。これがスピリチュアルペインです。

スピリチュアルペインとは、村田久行先生は「生きる意味や目的、あるいは自己の存在の意味や価値を見いだせない苦痛」、小澤竹俊先生は「自分の存在を失うような苦しみ」、私は、「死んでしまいたいと思うような苦しみ」といっています。

スピリチュアリティが適切に機能すれば、1)自己の内面に、見失われた生きる意味や目的を新たに見つけることが出来る。2)自分の外の、人間を超えた新たな拠り所によって、生きる力や希望を見つけ出すことが出来る。そして、スピリチュアリティが適切に機能した結果、新しい生きる意味や目的、希望を見いだし、これまでの生き方や価値観を見直し、病気や死に翻弄されない自己を探求するようになる。つまり自己の存在の意味や価値の回復です。

スピリチュアルケアとはスピリチュアリティを適切に機能させることなのです。

 スピリチュアルケアの条件には、話し相手であり、理解されていることであり、触れあいである(ハンス・ヨナス アウシュビッツ後の神概念)。苦しみの中にある人が求めることは、聴いてもらうこと、分かってもらうことである(村田久行)。つらい時にはつらい、苦しい時には苦しい、と丁寧に話を聴いてくれる人が、分かってくれる人、理解してくれる人である(小澤竹俊)。

 スピリチュアルペインに対するケアの一つに傾聴というものがあります。「傾聴は、人は心から聴いてもらえると、気持ちが落ち着き、考えが整い、生きる力が湧いてくる。聴くことは、それだけで援助になるのである」(村田)。傾聴とは、その人のつらい思いに共感しつつ、丸ごと受け止めていくことです。

 緩和医療が当然な事とすればホスピス緩和ケアにとって最も大切なケアは、生きる意味を見失った人々に対するケア、すなわちスピリチュアルケアなのです。スピリチュアルケアこそホスピスケアの本質と思います。

日本死の臨床研究会では「死の臨床とコミュニケーション」をテーマに毎年研修会を開催しています。是非参加して下さい。

 ではここからケアタウン小平の取り組みについて紹介します。

 私は14年近くホスピス医として働いてきましたが、200510月、現在のケアタウン小平クリニックを開設し、在宅医となりました。

 日本では医療保険の制度上、ホスピスで受けられる疾患は末期がんとエイズに限られています。人は誰でも死が訪れます。限られた患者さんだけにホスピスケアを提供している現在のホスピスのあり方に疑問を感じるようになりました。ホスピスにこられる患者さんを待つのではなく、こちらから患者さんが住んでいるお宅にケアを届けるという形をとれば、病気の種類を選ぶ必要がありません。そこで、ホスピスケアの経験をがんの患者さん以外にも広げ、一人暮らしの人が病気や障害を持ったとしても、地域の中の自宅で最期まで暮らし続けられるような支えをしたいと思いました。

ケアタウン小平は東京都小平市にあり、3階建の建物で、1階に在宅療養支援診療所(ケアタウン小平クリニック)、NPO法人が運営する訪問看護ステーション、デイサービスセンター、子育て支援、ボランティアなどがあり、また、同じ1階に他の事業体が運営する居宅介護支援事業所、ヘルパーステーションがあります。2階と3階は賃貸ワンルーム(いっぷく荘 21戸)になっています。

 ケアタウン小平の大きな特徴は、このように運営主体の違う、既存事業体が一ヶ所に集約したチームから成り立っていることです。「最期まで家にいたい」という思いを支えるためにはボランティアとの協働は大きな要となっています。

在宅ケアは24時間体制をとっており、緊急時の対応も行なっています。事業体が同じ場所にあるので、速やかに情報を共有でき、質の高いチームケアを提供することができます。訪問エリアはおよそ半径3キロとしています。それは、このエリアで今後、どのような職種の人が何人くらいいれば在宅ケアを支えられるかという社会モデルがつくれるからです。現在、常勤の医師3名で100人程度の患者さんを診ています。訪問看護師の中にはホスピスの経験者もいます。

これまで当クリニックで診療した患者さんの看取り場所をみますと、200510月〜201112月迄では、がん患者417人中在宅死308人(73.8%)、病院死109名(26.1%)、非がん患者85人中在宅死61人(71.8%)、病院死24名(28.2%)でした。

20111月〜201112月迄では、がん患者77人中在宅死66人(85.7%)、病院死11名(14.3%)、非がん患者13人中在宅死9人(69.2%)、病院死4名(30.8%)でした。がん患者の在宅死の割合が幾分増加してきています。

在宅では場の持つ力というものを感じます。ホスピスではがんの痛みで苦しむ患者さんの半数以上に注射用のモルヒネを使っていましたが、在宅では、医療用麻薬の飲み薬や貼り薬、座薬などを組み合わせることで、注射用のモルヒネを使用しなくても痛みが抑えられています。住みなれた場所で自由に動き回り、家族がいつもそばにいる環境などが痛みを和らげる効果になっています。

グリーフケアの取り組みも行なっており、ケアタウン小平では@患者さんの死後、1ヵ月半のころに訪問看護が花を届けている(クリニックと連名で)、A年2回ご遺族とスタッフの茶話会(患者さんの死後6ヶ月以内のご遺族)、B年一回ケアタウン小平とご遺族の交流会(患者さんの死後1年以上経過したご遺族)を行なっています。遺族同士が出会う機会ができたことで、ケアタウン小平に在宅遺族会「ケアの木」が誕生しました。ケアの木の活動は、遺族会総会、語ろう会、ケアの木サロン(毎月第3木曜日午後2時から3時半)などがあります。現在、ボランティア活動をしている人の2割がご遺族です。

ケアタウン小平のその他の事業として、デイサービス、食事サービス、子育て支援、豊かな庭づくり、文化スポーツ倶楽部、地域ボランティア育成、セミナー等企画運営があります。例えば、子育て支援では大人と子供が定期的に集い、遊びの会を開いています。ここで子供たちは互いに支えあうことの大切さを学びます。人は誰でも人間として生きる意味を見失ってしまうスピリチュアルペインに直面してしまうことがあります。子供も同じなのです。

また、2007年から「ケアタウン小平応援フェスタ」を開催しております。この応援フェスタは各事業の利用者さんやそのご家族、地域の住民との交流を目的に始めました。当日は、中庭で地域の高齢者や子供さんまで集まり、いろいろな催しが行われます。そして、会の最後には皆で書いたメッセージを風船(この風船は自然にかえるという環境に優しい素材で出来ているもの)に込めて大空一杯に飛ばします。こうして地域の皆さんにケアタウン小平を応援していただき、同時にケアタウン小平が地域の皆さんを支えていくのです。

私は安心して暮らせるコミュにティとは、たとえがんの末期であったとしても認知症であったとしても、最期まで人権を守られ尊厳と自立(自律)をもって暮らせることを保証するコミュニティだと思っております。

では、残りの時間で在宅医からみた医療の課題についてお話します。

現在、3人に1人ががんで死亡しており、近い将来2人に1人ががんで死亡する時がきます。がん患者の在宅看取り5年間の推移をみても、1ヶ月以内の看取りの割合が高いことが分かります。在宅に紹介されてから亡くなるまでの期間が短いのです。「多くの進行固形がんに対する薬物療法では、完治することは稀で、最終的に大部分の患者が死亡する」(がん薬物療法専門医 平山泰生)、といわれています。患者さんは医師に説明されるままに治療を受けますが、治療開始前に「治療の目的は延命であり、治るわけではない」と伝える必要があります。分子標的薬の登場により重篤な副作用もなく、死の直前まで積極的薬物療法が行なえることもしばしば経験するようになりました。つまり、死ぬまでがん治療に縛られるということです。得られるメリットは数ヶ月(まれに数年)の延命しかありません。医師は事実を患者さんにしっかりと伝える、インフォームドコンセントを誠実に行なうことが大切ではないかと思います。

私の外科医時代は患者さんが病院で死ぬという事が問題でした。ホスピス医時代は患者さんがホスピスでどう生きるかが課題でした。在宅医になった今、患者さんが受ける病院側の医療に問題があると感じております。認知症の患者さんに胃ろうを作り、本人の意思に関係なく栄養を補給する方法があります。人生の終末期には何が大切なのか。抗がん剤治療を選択しない生き方、胃ろうを選択しない生き方もあります。患者さん自らが選択できる医療を考えるべきではないでしょうか。

                        文責:石上節子




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リーフレットはこちらから ダウンロードできます↓
遺族の会 ふれあい
ホスピス 110番
仙台ターミナルケアを考える会