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          平成29年度 定期総会特別講演U

    「スピリチュアルケアにおける
          臨床宗教師の役割」
 
           谷山 洋三 氏
                  東北大学大学院文学研究科
                  実践宗教学寄附講座准教授



 「臨床宗教師」とは日本版チャプレンであり、公共空間で心のケアを提供する宗教者を指す。布教伝道を目的とせず、神道・仏教・キリスト教などの宗教協力を前提としている。東日本大震災後の宗教者による支援活動がきっかけとなり、「(緩和ケアにおいて)死に至る道しるべが必要」だとする故・岡部健医師の意思に応えた活動とも言える。

 普段は寺社教会(私的空間・ホーム)で活動している宗教者が、ある特定の時間帯にだけ医療福祉施設や被災地などの公共空間(アウェイ)で臨床宗教師として活動する、というイメージである。宗教者としては「教え導く」ことが主な仕事であるが、臨床宗教師としては「寄り添う」ことを旨とする。ケア対象者からのニーズに応じて「祈る」こともある。ちなみに祈りは乾杯や勝利祈願など日常的にも行われていることであり、セルフケアとしても活用できる。

 2012年に東北大学大学院文学研究科に実践宗教学寄附講座が開設された後、龍谷大学、上智大学など9大学機関に拡がり、昨年度末までに200名以上の臨床宗教師が養成された。そのうち、東北大学病院緩和ケア病棟、松阪市民病院緩和ケア病棟など、国公立をはじめ20数名が医療福祉機関で雇用されている。また、全国約10カ所でカフェ・デ・モンクが開催されており、東北や熊本の被災者のみならず一般市民向けの相談の場となっている。

 臨床宗教師の養成における特徴を2点あげるならば、「多様な価値観を認めること」と「自分自身を見つめること」がある。どちらもスピリチュアルケアの基礎となる。前者における価値観とは、宗教や死生観だけでなく、職業観・人生観なども含まれる。つまり、人間には十人十色の価値観があることを認めていく、受容するという姿勢が大切なのである。後者は、認識論でもあるが、例えば父親と折り合いがよくない人は、父親のような人物に出会うと緊張したりイライラすることがある。そのことを自覚しておくことで無用なトラブルを避けることができる。より多くの人に対応できるようになるには、生育歴を書くなど対人関係における自分自身の傾向や癖などを確認しておくことが望ましい。

 また、多様な宗教者が共に学び協力する場であるため、特定の宗教観を基礎に置くことはあできない。その代わりに、民間信仰についての理解を深めている。日本人の多くが「無宗教」を自認しながら墓参り、初詣、クリスマスなど宗教的な慣習に親しんでいる。時には「困った時の神頼み」もする。このような行動は、様々な宗教の中に混ざり込んでいる民間信仰の実践と見做すことができる。宗教者としては民間信仰よりも自教団の教義を優先したいところであるが、臨床宗教師の立場では民間信仰を受容することでケアの役に立つことが多い。

 「死んだらどうなる?」と問われた時は、臨床宗教師の出番かもしれないし、岡部先生の思いに応える時でもある。ただし、安易に特定の価値観を押しつけてはいけないし、臨床宗教師は慎重に対応するように教育されている。ケア対象者にとって新しい知識や価値観を提供するとき、もしくは周囲から見ても宗教的な色が強い言動をするときには、ケア対象者本人(場合によっては家族やスタッフにも)了解をとりながらプロセスを進めていくことが望ましい。宗教者にとってはアウェイである公共空間では、そのような慎重さが必要なのである。



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リーフレットはこちらから ダウンロードできます↓
遺族の会 ふれあい
ホスピス 110番
仙台ターミナルケアを考える会